home > 月刊LOGOS > vol.87 かごしま 茶飯事
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この旅は、ある日のふとした会話から始まりました。「BBQでコーヒーや紅茶は飲むのに、日本茶ってあんまり飲まないよねえ」「そもそも静岡以外でお茶を作ってるのってどこ?」。そんな疑問をゆるやかに紐解いていくうちに出てきたのがここ、鹿児島県でした。意外にも、静岡に次いでお茶の生産量が2番目に多い場所。鹿児島のお茶って? 食って? 好奇心のまま、気の向くまま足を伸ばした初夏の旅をお届けします。
撮影/衛藤キヨコ  取材・文/安部しのぶ

今回の旅を一言で言うなら「大人の気ままな社会科見学」。お茶とご飯にまつわる人たちにたくさん出会って、食べたり飲んだり話したり。ときには仕事現場もお邪魔しちゃったり。笑顔で迎えてくれたみなさんと、お茶とご飯のおいしさに感激しっぱなしの6日間でした。

鹿児島空港の目の前にある西郷公園にさっそく立っておられました。高さ10.5mと日本で一番BIGな西郷どん。拝みたくなる大仏的な大きさ。

東京よりも夏に近い場所。気温も、吹いてくる風の感じも違います。色彩もなにもかも、ちょっとだけ南国チック。

道すがらのトロピカルな風景に自然とテンションが上がりつつ、クルマで移動。向かった先は鹿児島市街の近くにある…。

茶葉の入札市場です! 一般の人はふつう入れない場所を特別に見学させてもらえることに。ここまで大きな規模の市場はほかにないそう。

入札システムを作った新原仁次郎さん(銅像)は「鹿児島茶の父」と呼ばれています。さりげなく、手に茶葉を握っておられます。

市場を案内してくれたのは新原光太郎さん。入札中です。4月と5月で1年分の茶葉をすべて買い付けるため、その表情は真剣。

「こっちとこっちでは、緑の色が違うでしょう? 黄色い緑、青い緑、黒い緑…いろんな緑があります。手触りや香りも全然違うんですよ」。

光太郎さんが経営している「すすむ屋 茶店」にもお邪魔しました。鹿児島市内にあるモダンなお茶のショップ&カフェです。

お店に立っているのは、光太郎さんの奥様の陽子さん。おいしい煎茶の入れ方をレクチャーしてくれました。

70℃〜80℃に湯冷まししたお湯を茶葉に注ぎ1分。最後は高い打点から力強く数回振り切ります。最後の1滴まで出し切るのがコツ。

居心地がよすぎて居座ってしまいそうな気持ちを振り切り、鹿児島旅を続けます。雲がかかった桜島を横目に移動。

陽子さんにアウトドアにぴったりのお茶を教えてもらったので、海辺で実際にいれてみることにしました。それはなにかというと…。

ほうじ茶です! 煎茶の茶葉を「ターボファイヤー」で火にかけ、ほうじ茶にするところからトライしました。炒る塩梅が難しい!

ほうじ茶は沸騰したお湯でいれてもおいしいのだとか。もうすぐ発売の「氷点下キープシリンダー・サーモテクト」に入れて持ち運びます。

到着1日目ですでに鹿児島茶が大好きになってしまった取材班。自分たちでいれたお茶を飲み飲み、向かった先は…。

お茶の農園です。急な斜面をクルマで駆け上がり、たどり着いたグリーン一色の風景。見える範囲すべて茶畑。

いまにもトランスフォームしそうななにかに乗ってお茶農家・今村さんが登場! すごい! かっこいい! 茶摘みの機械だそうです。

ちょうど昨日、一番茶の作業がすべて終わったところだそう。ひと息ついたからか、笑顔も多め。「昨日まではヤバかったです(笑)」。

今村さんがお茶と同じくらい(?)、愛しているのが薪ストーブ。これ全部自分で割ったんだとか! 「2〜3年乾燥させてから使います」。

お茶のプロから話を聞けて大満足。「アウトドアにお茶はいいぞ、君たち!」と疾走する彼らに向かって呼びかける(心の中で)。

そんなプロを紹介してくれたのがこちら、前原宅二郎さん。鹿屋(かのや)市のキーパーソンで、今回ありえないほどお世話になりました。

前原presentsで舌鼓を打ちまくる鹿児島の夜。地元・鹿屋の”幸福豚”のローストポークは力強い旨味があり。けれどもやさしい味わいもあり。

絶品料理は「この路」シェフの蜂谷拓広さんによるもの。肉や魚、発酵や熟成の知識が豊富すぎて「おいしい!」「すごい!」の大合唱。

楽しい宴の翌朝。ホテルに置いてあった鹿児島の水「財宝」が体に染み渡る〜。飲みやすいのでお茶をいれるのにもよさそうです。

「氷点下キープシリンダー・サーモテクト」で水出しのお茶を持ち歩くことに。全然ぬるくならない! 

お茶のお供、おにぎりを道の駅で食す。人の手で握ったおにぎりって、どうしてこんなに塩加減が絶妙なんでしょう。

前原さんのお店「Araheam(アラヘアム)」へ。植物を中心とした複合ショップです。ほんと〜に、連日お世話になっちゃってすみません! 

日本の植物だけじゃなく、海外から仕入れたものもたくさん並んでいます。前原さんが自ら買い付けに行っているのだとか。

コーヒーショップやセレクトショップ、ギャラリーも併設。なんて遊び心が詰まったお店! 「コーヒー飲んでいきません?」と前原さん。

大会で全国2位(!)に輝いたバリスタ・安田さんがいれてくれました。これがもう本当においしい! このためにここに来たいと思う一杯。

前原さん推薦で向かった次なる場所。昨日食べた幸福豚などのオリジナル品種を育て、加工&販売している「ふくどめ小牧場」さんです。

豚の解体現場も見学。左の方が前原さんの友人、福留洋一さんです。週に1度の解体の日には、10頭の豚をさばくんだそう。

豚の構造を知り尽くした迷いなき包丁さばきに圧倒。そうしてできたハム、ソーセージのおいしさに、さらに圧倒。

レストラン併設の「ふくどめ小牧場」はランチタイムから大賑わい。ようやく訪れたまかないの時間、スタッフさんたちもひと息です。

間違いなくおいしいでしょう。「飽きないようメニューを考えますけど、魚だけはやりません。匂い充満するんで(笑)」とスタッフさん。

福留さんの3兄弟の末っ子、“ハムじろう”と書いて公次朗くん(2ヵ月)はみんなのアイドルです。

おいしさとともに、命を食べる、ということを噛み締めた訪問。福留さん、みなさん、ありがとうございました! 

お次なる人は前原さん曰く、「すごく哲学的でおもしろい人。ひとことで言い表せないので、ぜひ行ってみてください」とのこと。気になる!

ここは…? 農園ではあるようですが、ひとつのスペースにいろんな品種が一緒になって育てられています。見慣れないオブジェも。

宮原悠成さん。農家でありながら、GYOという食の提案を行っている方です。GYOとは、「GrowYourOwn」の略。

簡単に言えば、食べるものを自分で育て、自分で採る体験のこと。「植物を育てるみたいに野菜を育てたら毎日もっと楽しいだろうなって」。

植物のプランターなど、さまざまな容れ物で野菜を育てる実験を行っていました。さしずめラボのような雰囲気。

はじめて触れる発想で、帰りのフライトギリギリまで話を聞いてしまいました。食に対する新たな提案。編集後記も参照のこと。

数珠つなぎのように次から次へといろいろな人に出会った旅ですが、合間にいろんなモノにも出会いました。たたみかける最南端、中学生駅員に、長渕剛(!?)。そこはかとないファニーさがじわじわくる道中のアレコレ。鹿児島って、おもしろいです。

ご当地などを狙わずとも、道中で食べるものがやたらとおいしかった鹿児島の旅。鹿屋市のパン屋さん「リッチモンド」、おすすめです。

どことなく沖縄っぽさを感じたりもして。南国っぽい風が吹いているからそう思うのでしょうか?

前原さん(上の特集内参照)が連れていってくれたスナック「ナイス デイ ナイス」。佇まいからしてナイス。

鹿児島の魅力について語るママ。「桜島はいつ見ても『いいなぁ』って思う。噴火で、昔とはちょっとずつ形が変わってきてもいて」。

今回はお茶の季節に合わせ、4月23日〜25日、5月16〜18日の計6日間の旅でした。4月はけっこう雨に降られたり。

「渚のバルコニー」(by聖子)が流れる道の駅にて休憩。からの「聖子派か、明菜派か」の昭和アイドル談義でひとしきり盛り上がったり。

クルマでの移動中も、めちゃくちゃ気になるお店が多々ありました。看板がかわいいので寄ってみることに。

福嶋商店の奥さんと、そのお友達のケイコさん。ふたりは40年来の友達だそう! いつもこうやって雑談しているのだとか。

「この店辞めたいんだけど、辞めさせてくれないのよ。このおばちゃんたちが」。お父さん、ブラックジョークきいてます。

「おばちゃんがこれオゴってあげる!」とケイコさんがお土産をもたせてくれました。もち米を灰汁で炊いた「あくまき」。うれしい〜!

偶然の出会いあり、偶然の絶景あり。なにもない、ということがない。長時間移動していてもまったく飽きません。

5月の旅はうってかわってピーカンでした。見よ! この真夏感。鹿児島は海沿いの道が多くて、ドライブが気持ちいい。

カメラマン衛藤さんがパックで梅干しを購入。暑くても腐らない梅干しの万能さを知る。

ハイ。これより本州最南端シリーズで畳みかけます。その1。最南端の道の駅「根占(ねじめ)」。マンゴーアイスが美味でした。

最南端その2。大泊郵便局。風景印がかわいく、旅行者に人気だそうです。ここからの看板はもれなく「最南端」押し。

その3。本州最南端スポット「佐多岬」の入り口ゲート。「8km」って、まだまだ先ですけどね。

その4。最南端の半潜水型水中展望船「さたでい号」。サンゴ礁や熱帯魚などが見られるそうです。

おお、着いた! と思いきや、その5でした。こちらは北緯31度のモニュメント。「最南端」の文字を見すぎてゲシュタルト崩壊寸前。

本当の最南端はこの先に。暗く長いトンネルを抜けて〜の…。

うっそうとした道を登っていき〜の…。

縁結びのパワースポット「御崎神社(みさきじんじゃ)」でお参りして〜の…。

おみくじ引いたら意外といい結果でうれしくなり〜の…。

坂道をしばらく歩いて展望台がようやく見えてき〜の…。

はい! 最南端・佐多岬です!! 鹿児島空港から実にクルマで2時間半&徒歩20分。でも、それくらい時間をかけてもおつりがくる絶景。

甘いものをチャージ。佐多岬産の塩「楽塩」を使った塩ソフト、めちゃくちゃおいしい! ふと見れば「工房見学可能」の文字が。

楽塩って、鹿児島のいろんなところで見るんですよね。お土産屋でも、レストランでも。というわけで急遽、見学に行ってみることに。

民家に足を踏み入れると、お父さんが快く迎えてくれました。薪でガンガン炊き途中の大きな釜が3つ。これらすべてに海水が入っています。

わ〜、キレイ! 海水の表面に浮いてくる不純物を何度も丁寧にすくうからこそ、この白さの塩になっていくそう。気の遠くなる作業。

「俺はいいよぉ、撮らなくて」と言いつついろいろしゃべってくれるお父さん。あまりにもフォトジェニックだったので1枚いただき!

楽塩を作っている「佐多岬製塩所」の社長さんが戻ってきました。森大輔さん。佐多岬の海に魅せられ、塩を作ることを決意したそう。

鹿児島はけっこうなクルマ社会ですが、フェリーもあります。せっかくなので体験してみることに。

カニの爪のような形をした鹿児島は、向かって右の爪が大隅半島、左が薩摩半島です。大隅から薩摩へ、クルマごと乗船して移動〜。

フェリーで食べた冷やし中華。ていうかこれ、めちゃくちゃかわいくないですか? 道すがらのショップが本当に充実していた鹿児島旅。

時間が合えば、フェリーでの移動はとっても便利なのでした。風が気持ちいい〜。50分ほどで、薩摩半島が見えてきました。

こっちにもいたか、最南端!(笑) 指宿枕崎線の「西大山」駅です。

おそらくこれも最南端のキャベツ直売所でしょうね。並べられている後ろにもびっしりキャベツ。

最南端の駅の前では太っ腹な試食コーナーが。試食があれば、とりあえず口にしてみる女子ふたり旅。

指宿駅に到着しました。鹿児島の観光地のひとつで、砂むし温泉で有名な場所ですね。外国人観光客多し。

列車がある場所だと人がたくさん歩いてて、見れる光景も違いますね。小学生ふたりの寄り道だらけの帰り道。

「指宿でオススメの場所ありますか?」と入った酒屋さん。「ついでにビールください!」などとやりとりしているうち打ち解けまして…。

「つまみ、出しましょうか?」となり、おからケーキをいただきました! やさしい(涙)。結局どこにも行かず店前ベンチに居座る(笑)。

「えーただいまから普通列車が参ります」と、指宿駅改札でめちゃくちゃこなれたアナウンスをしていた中学生。職業体験中だそう。

彼らともう少し話したかったけど、時間切れにて列車に乗ることに。「ここに近い宮ヶ浜駅は、景色すごくいいですよ!」と中学生。

いい雰囲気のレトロ電車がやってきました。最後の移動は、鹿児島空港に一番近い駅を目指して鈍行で北上します。

旅の相棒だった「CADVEL-Design45(カモフラ)」。たっぷり容量でお土産が増えがちだった道中助かりました。ありがとうカモちゃん。

中学生の言うとおり宮ヶ浜で窓の外に目をやるも、「長渕剛ゆかりの地」が強くて肝心の景色を見逃す(笑)。最後まで笑った6日間でした。

取材後記
「お茶とご飯をめぐる旅」。
「お茶とご飯をめぐる旅」。  レンタカーを借りて、鹿児島空港からいざ、お茶の地へ。
 今回の旅程は、4月下旬と5月中旬の計6日間。その2/3は、鹿屋(かのや)という場所ですごした。鹿児島をカニの爪にたとえると、向かって左爪の薩摩半島には鹿児島市街地や砂むし温泉で有名な指宿など、話題のスポットがたくさんある。一方、鹿屋がある右爪の大隅半島は穏やかな場所で、現地の人いわく「行く理由がなければまず訪れない」エリア。はじめての訪問者にとって判断に迷う道も多くて、移動は四苦八苦だった。運転を担当してくれたカメラマンさんを助手席から必死にナビゲートするも、「大根占(おおねじめ)」や「肝属郡(きもつきぐん)」など標識に書かれた地名が読めず、検索にもひと苦労。グーグルマップ上で何度も自分たちを見失った。
 けれどそんな大隅半島は、クルマの窓から見える風景こそが美しかった。
 半島の上から下まで海沿いをひたすら走ることができる長いルートがあり、とにかく楽しい。海をバックに、ローカル線や桜島やヤシの木や港のボートなど、いろいろなものが代わる代わる現れ、まるで長編絵巻を見ているかのよう。それは東京出身の自分からすると心躍るもので、ずっと眺めていられた。風も海の色もどことなく南国。沖縄に近いエリアだということが体感でわかり、独特なあたたかさに頬がゆるむ。
 そもそも今回鹿児島を訪れることになったきっかけは、お茶をめぐる旅の行き先として産地を調べていたところ、静岡県に続き生産量第2位として鹿児島県が出てきたことだった。しかも日本で一番、収穫が早くはじまるらしい。
 鹿児島? 意外すぎる。お茶なんてあったっけ?
 鹿児島の飲み物といえば焼酎な私は、あまりの想像できなさに、次の瞬間には行くことを決めた。
 旅立つにあたりお茶について掘り下げようとしたものの、さっそく壁にぶつかった。自分のなかに、お茶の知識がまったくない。たとえばコーヒーならコロンビア、ブラジル、ブルーマウンテン、紅茶ならダージリンにアールグレイにアッサムにと、詳しいわけでもないのに片手で数える程度の銘柄は簡単に浮かんでくる。味の違いもなんとなくだけど、わかる。対してお茶。やぶきた茶、宇治茶、お〜いお茶…って、3つ目からペットボトルの銘柄が出てくる始末。
 考えてもラチがあかず、結局、全然わからないから現地で学んでいこう! という、月刊LOGOSでよくやる丸腰突撃作戦を決行することにしたのだった。
日本のお茶は、
鹿児島のやさしさでできている。
日本のお茶は、<BR>
鹿児島のやさしさでできている。  海沿いの道から内陸に少し入った高台にある、お茶の農園を訪ねた。
 ここで出会った農家の今村和也さんの話が、笑えるやら興味深いやらで印象に残っている。
「静岡の人がすごいと思うのは、お茶を作っていない人でも静岡茶を語るんですよ。鹿児島は2位だけど語らない。語る文化がない(笑)。まぁ、鹿児島のお茶の全部が『鹿児島茶』という名前で出るわけじゃないですしね。『静岡茶』に名前が変わることもありますから」
 つまりはこういうことらしい。お茶というのは年間スケジュールがあって、全国の百貨店は八十八夜にあたる5月2日に必ず新茶を置かなければいけない決まりがある。鹿児島の日本一早い収穫は4月上旬からはじまるため、5月2日に並ぶ新茶は静岡茶という名前であったとしても、鹿児島産の葉がブレンドされていることがあるらしいのだ。静岡以外にも、いろいろな土地でほかの茶葉とブレンドされ、別名で売り出されることもあるのだそう。日本中のお茶は、鹿児島の茶葉がないと成立しないのだ。
 初耳すぎてびっくりしていると、今村さんが続けて口を開いた。
「よく『鹿児島茶って名前で売り出せないのは悔しくないですか?』って聞かれるんですけど、それに対しては『買ってもらえないくらいなら、静岡茶に名前が変わってもいいです』って答えてます(笑)。だってスーパーに行って鹿児島茶、静岡茶、京都茶って並んでたら鹿児島はまず選ばないですよね? 買ってもらえないよりは全然いい。もちろん、『鹿児島の名前消していいよ!』なんて、こっちからは絶対言わないですけど(笑)」
 なんだろう、この圧倒的なおおらかさは。縁の下の力持ちになることを厭わない感じ。かといって仲間たちと作っている100%鹿児島産の「大根占茶」について聞けば、それはそれでたっぷり語ってくれるから、自分たちで出すものにはきちんとこだわっている。
「でもね、本来お茶はいろんな種類をブレンドしたほうがおいしいんです。自分が作っている茶葉だけで、すべての特徴を出せるわけじゃないので。うちはうちの特徴のあるお茶をつくるだけで、ブレンドは茶商さんの仕事ですけどね」
 その言葉で、今村さんの前に会いに行っていた新原製茶さんの話を思い出した。新原製茶さんは製茶卸売業を営んでいる、まさに“茶商さん”で、お茶の入札市場を特別に案内してくれた。そんな新原夫妻から聞いた、「同じお茶には二度と出会えない」という話。
 どの銘柄をどれだけブレンドするか。深蒸しか浅蒸しか、深煎りか浅煎りか。同じ品種であっても農家さんによって味が変わるし、昨年と今年では茶葉が育った気候も違う。いれる時のお湯の温度と注ぐタイミングでも個性が出る。さまざまな偶然を重ねてできたその一杯は、絶対にほかと同じにならない。その時でしか味わえない味なんだ、と。
 ずらりと並んだ入札用の茶葉は、それぞれ手触りと香りが違っていた。違うことは、素人の私でもわかった。けれど良し悪しはわかるはずもない。ここからいい茶葉を探り当てて最高の一杯に仕立て上げるのは、無限の空間から宝石を一粒探し当てるようなものだ。もしかすると千利休の「一期一会」という言葉は、人と人との出会いだけじゃなくて、お茶そのものの“二度とない味”という意味合いも含んでいるのかもしれない。急に発想が飛んでそんなことを考えてしまったほどに、お茶の果てしなさを感じた。
 と同時に、自分のお茶に対する無知が申し訳なくなってくる。
 ボタンを押せば転がり出てくるペットボトルのお茶、そこにもきっと鹿児島の茶葉は入っているわけで、知らず知らず自分もめちゃくちゃ鹿児島のお茶を飲んでいたわけだ。そんな無意識を恥じ入ってると、「でも、自動販売機でお茶を選んでもらえるならいいですよね。お茶以外のドリンクもいっぱいあるんだから」と今村さんは笑ってくれた。なんたるやさしさ。「そもそも僕らは“鹿児島茶”を作ってるけれど、その前に“日本茶”を作っているので」。
 水筒に入れてきたお茶の、ゆれている表面をしばらく眺めた。新原さんが経営している「すすむ屋 茶屋」でもらった茶葉で入れたお茶だ。一期一会を思いながら口をつける。…ちょっと、煮出しすぎたかもしれない。新原さんが目の前でいれてくれたお茶は、目が覚めるおいしさだったけれど。でも、自分が入れたこれも二度と出会えない茶の味だと思うと、どこか特別な気がしたのだった。
ここは独立国家?
混じりっけない場所で思うこと。
ここは独立国家?<BR>
混じりっけない場所で思うこと。  いま改めて鹿児島の日々を思い出してみると、あらゆる場所で長居していたな、という印象だ。会う人会う人みんなおもしろくて、つい話し込んでしまって、居座ってしまうことがよくあった。
 本州最南端の佐多岬の塩や、この場所にしかない豚「幸福豚」、キジ刺し、熟成かんぱち。食にも、お茶と同じくらいストーリーが詰まっていた。「食材を収穫する場所とキッチンとの距離を縮めること。食材が最高においしいのは採れたての瞬間だから」「家で植物を育てるなら、野菜だって育ててもいいはず」といった考えのもと、家庭菜園の新たな可能性をさぐっている宮原悠成さんのラボのような農園も、数年後の未来を感じさせてわくわくした。
 みんな好きなことを思い切りやっているからだろうか、考え続けているからだろうか。1の質問が10以上の言葉で返ってくるので、帰る頃には「ですです」という鹿児島の方言がすっかり移ってしまって(標準語の「そうです」。相手の言葉を肯定する言葉)、東京に戻ってからもしばらく「ですです」が口をついて出てきた。
 でも私が話を聞き、体験させてもらい、驚いたりしたアレコレは、出会った人からすれば特別なことではなくて、むしろルーティンや生活それ自体だった。“お茶とご飯のこと”としてタイトルにつけた「茶飯事」はそもそも、「ごくありふれたこと」という意味がある。「お茶」と「ご飯」を訪ねたこの旅は、結果的に、人の日常をめぐる旅だったようにも思う。
 それにしてもいろんな人がいるものだ、この場所には。色分けしても誰もかぶらないのに、我が道を行くスタイルはどこか似ているのが不思議。そんな人たちを紹介してくれた鹿屋のキーパーソン、前原宅二郎さんが話してくれた鹿児島人を形容する言葉が、なんだかとてもしっくりきた。
「鹿児島って独立国家というか(笑)、ほかに比べて人が往来しないところで。本州最南端で海に囲まれてるから経由する県じゃないし、上から誰か来るかって言っても、目的がない限り来ないです。南に下がるにつれて段々となにもなくなっていくんですけど、それにつれて、人間自身の混じりっ気もなくなっていくんですよね」。
「おもしろい人は、まだまだいますよ」と前原さんは言う。ゲジゲジだらけの防空壕で生姜のおいしさを追求している人とか、粉醤油を作っている人とか。さわりだけ聞いても前のめりになってしまう。会いたい。また鹿屋に来たい。
 ひとつ後悔しているのは、私の助手席のナビが本当にポンコツだったこと。運転免許を持っていないため、移動が予想以上の珍道中になってしまった。クルマ社会の鹿屋への再訪を目標に、この原稿を書いたあと、教習所に通いはじめようと思う。


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